ブロックチェーンは食品ロスを改善するか?

あなたはスーパーやコンビニで食品を買うとき、少しでも賞味期限の長いものを買おうと棚の奥に手を伸ばしていないだろうか?

実は僕も、つい最近までそうしてきた。

賞味期限について誤解していたからだ。

賞味期限というのは、袋や容器を開けないままで、書かれた保存方法を守って保存していた場合に、この「年月日」まで、「品質が変わらずにおいしく食べられる期限」のことだ(農林水産省のホームページ参照)。

これだけ聞いても、棚の奥にある商品を取る行動は変わらないかもしれない。出来るだけ生産されてから日が短いほうが、消費する期限に猶予があるし、得した気にもなる。

では、賞味期限が実は、実際の期限よりもかなり短めに設定されていると知ったらどうだろう。

例えば卵。

日本では、卵の賞味期限はパックに詰められてから14日後に設定されている。これは気温の高い夏場に生で食べる事を前提に決められているそうだ。

ただ実際には、気温が10度ほどの冬場なら、産卵から57日間も生で食べられるらしい。生でこの期限なので、加熱調理すればさらに長く食べられることになる。

また、海外に目を向ければ、賞味期限が一ヶ月半以上など日本よりも大分長い期限が設定されている国、メーカーもある。

もちろん、賞味期限が切れた卵は加熱調理しないとリスクがあるだろう。しかし、逆に言えば、市販の卵のパックにも記載されている事があるように、賞味期限が切れた卵は、なるべく早めに加熱調理すれば食べられる。

加熱すれば食べられるのに、賞味期限が切れる1週間ほど前には販売期限切れとなり、販売棚から撤去され、処分されてしまうのだ。

このように、食品の賞味期限というのはかなり余裕を持って設定されていることが多い。その上、期限を過ぎたとしても食べられなくなるものではない。

そのあたりは、期限を過ぎたら食べない方が良い消費期限とは明確に異なる。

つまり、わざわざ棚の奥まで手を伸ばし、数日間賞味期限が長いものを購入しても意味はなく、むしろ食べられる食品の廃棄、つまり食品ロスにつながるだけという事だ。

日本の食品業界には、3分の1ルールというものが存在する。
例えば生産されてから賞味期限までの期間(賞味期間)が3週間の食品があるとしよう。

この場合、その期間の三分の一である1週間までに、その商品はスーパーなどの小売店に届けられなければならない。

それに間に合わなければ、スーパーやコンビニなどの小売店から納品を拒否されてしまう。

これは法律で定められている訳ではなく、いわゆる日本独特の商習慣だ。

もちろん小売店からすれば、商品寿命が長いものを仕入れた方が売れる可能性が高い。

でも、この3分の1という期間に明確な理由はなく、昔からそうだったからという理由で、いまでも残っている慣習だ。

ちなみにアメリカでは2分の1、ヨーロッパでは3分の2が一般的だ。日本だって変えようと思えば変えられるだろう。

そして日本では3分の2の期間を過ぎると、「販売期限切れ」となり棚から撤去され、処分されてしまう。

最近では大企業を中心に「期限に合理的根拠はなく、食品や資源のムダにつながる」ということで、この3分の1ルールを改善させようという動きも出てきている。

賞味期限の表示には、年月日まで細かく表示するものと、年月までの表示に留まるものがある。

前者は牛乳や惣菜、肉などの賞味期限の短い食品、後者はペットボトル飲料や缶詰など、賞味期限の長いものに使われることが多い。

年月までの表示の方が、無駄な食品ロスを防ぎやすい。

例えば「2020年11月5日」と指定されているよりも、「2020年11月」となっていた方が、11月中は大丈夫ということになり猶予が長くなる。

どんな場合でも猶予が長くなるわけではなく、例えば賞味期限が2020年11月5日の食品を年月表示にするなら、「2020年10月」としなければならない等のルールがあるようだ。

といっても、賞味期限自体が短めに設定されている事を考えれば、期限自体の見直しとともに出来るだけ年月表示に切り替えていく事で、食品ロスを減らしていくことができるだろう。

企業が出来るだけ年月日表示にしたい理由の一つとして、トレーサビリティの問題がある。

商品に何か問題が起きたとき、製造番号や賞味期限の年月日など、出来るだけ具体的に影響のある商品群を絞れたほうが、商品回収(リコール)などの対応、影響範囲の限定などに役立つからだ。

こういった意味で、注目するべきはブロックチェーンだろう。

アメリカの食品大手Walmartの実証実験では、特定のマンゴーの産地特定にかかった時間は、ブロックチェーンを使えば数秒に短縮できたらしい。

既存のシステムでは、6-7日もかかるとのことだ。

これは驚くべき結果だろう。ブロックチェーンは消費者にとっても企業にとっても、より良い未来を作る素晴らしい技術と言えそうだ。

企業はリコールを含む商品管理のシステムを効率化、低コスト化できる。

消費者は嘘のない産地や品質の情報をスマホで簡単に得られるようになり(パッケージのQRコードをカメラで読むなどして)、自分が食べる食品に安心感を得られる。

ブロックチェーンシステムの導入によって商品管理が高効率化すれば、賞味期限表示に関しても柔軟な対応が可能になるだろう。

このWalmartの実験に使われたブロックチェーンは、IBMのものらしい。調べたところ、IBMブロックチェーンは残念ながらプライベートチェーンらしい。

プライベートチェーンでは、暗号資産(仮想通貨)が必要なパブリックチェーンと比べて、データの信頼性が低い。やろうと思えば、あとから企業が都合よくデータを書き換えることが出来てしまう。

これに対してビットコインを代表とするパブリックチェーンでは、暗号資産を媒介して信頼のネットワークを形成することができる。

食品のトレーサビリティ、サプライチェーンをターゲットにしたパブリックチェーンについては、今後も調べていきたい。

今のところ、食品企業向けのパブリックチェーンとしては、VeChainとAmbrosusが有力候補と思っている。

VeChainは中国のプロジェクトというのが若干引っかかるが、時価総額が大きく知名度が比較的ある。日本のお茶メーカーがすでに提携を発表している。時価総額が大きいということは、投資家や開発者の目にとまりやすいだろう。

Ambrosusはまだまだ日本では知名度が低そうだが、ヨーロッパの行政機関や国連に強い関係性を持っていて、IoT技術が明らかに突出している。ありがたいことにAmbrosus Japanという非公式サイトの充実度がハンパじゃなく、情報を得るには苦労しなかった。こちらは具体的な企業名は出ていないものの、日本の大手ITベンダー、冷凍食品大手など数社とすでに関係を持っているらしい。

どのブロックチェーンを採用するにしろ、商品管理がスムーズになることで食品ロスが減るのは素晴らしい。

今後も食品、健康、ブロックチェーンなどの技術について勉強し、ブログに書いていきたい。